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著者 | 大倉崇裕 | ||||
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タイトル | オチケン! |
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出版社 | 理論社 | 出版年 | 2007年 | 価格 | 1300円 |
評価 | ★ |
ドラマ『タイガー&ドラゴン』以来、落語ブームが続いているようです。落語好きとしてはこの状況を好ましく思うものの、とは言いつつ手放しで喜んでいるわけでもなく、なんとなく微妙な気分になっています。
さて、本書は落語を題材にしたミステリーです。
ひょんなことから大学の落語研究会(オチケン)に入部する羽目になった主人公が遭遇する奇妙な事件を落語のネタを元に解決していくというものです。
同様のコンセプトとしては、田中啓文の『笑酔亭梅寿謎解噺』がありますが、正直に言うと本書は田中啓文の作品に及ぶべくもないというのが僕の感想です。
まず第1に、どちらの作品の主人公も落語についてはからっきしの素人であるにもかかわらず天分の才を持っているという設定になっているわけですが、田中さんの作品の主人公が、「落語なんて……」という態度から落語の面白さに気づき、落語に取り組み始め、四苦八苦しつつも本人自身気がついていない才能を開花させていく流れがうまく描かれているのに対して、本書の主人公はいっこうに落語の楽しさを見いださないまま終わってしまいます。そのため、読んでいても主人公を通して、なぜ落語は面白いのか、名人技の凄さとはなにかがさっぱり見えてこないのです。本書を読み終えてから、あらためて本物の落語を聴いてみようという気には全くなりません。
第2に、謎解きとして落語のネタが使われている田中さんの作品に対して、本書では単純に事件が発生した際のシチュエーション道具として落語が扱われています。田中さんの作品では、たとえ無理解釈だったり、結果的に間違い推理だったりするにしても、落語のネタの重要な点をうまく事件と絡めているのですが、本書では事件が発生した際に流れていた音として使われているのにとどまっています。言い換えれば、本書では別に落語ではなく、普通に音楽でも何ら推理に影響がないのでは? という扱いになっています。そのため、田中さんの作品でにはあった「あぁ、このネタはこういう噺だったんだ」という発見が、本書では全くありません。
本書は確かに落語を題材にしているのですが、上記の通り、別に「落語」でなくてもいいんじゃないか? と言わざるを得ません。残念ながら、本書を読んで、「落語ってやっぱり面白いよね」という気分にはなれないのです。厳しい言い方をすれば、落語の楽しさをあまり知らない人が、とりあえず流行している落語を題材にして青春ミステリーを書いてみたというレベルです。本当に残念。
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