原文:夏目漱石 『坊ちゃん』 |
---|
出典:私立PDD図書館 |
親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりして居る。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間程腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出して居たら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階位から飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、此次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。 |
言わずと知れた夏目漱石 『坊ちゃん』 の有名な書き出しです。わずか233文字で、この主人公の人柄を生き生きと描ききっているわけで、まさに名文と言えます。
ところで、ここに書かれていることから登場人物についてわかることは、
ということだけなのですが、学校などで、「この文章から主人公の性格を述べなさい」という設問に対する答えとして、
と言ったところを模範解答にするようです。
しかし、なぜそのようなことが言えるのでしょうか。
まさにここに文体の影響を私たちは見出すことができます。メリハリのきいた短文。やや固さを持たせた言葉の使い方。こうした文体は文章全体を、テンポの良いものにし、清潔感と若々しさ、躍動感のあるものにしています。そして、その事が私たち読者に、この主人公の人となりをイメージさせているのではないでしょうか。
結論を急ぐ前に、具体例をお見せしましょう。