浅草花戸川に立花屋という鼻緒問屋がありました。ここの旦那が吉原の花魁を身請けして根岸に住まわせます。
最初の頃は自宅に20日、妾宅に10日だったのですが、奥様がやきもちを焼き、「どうせ、あたしの顔を見ても面白くないでしょ。フン」ことあるごとに嫌みを言うようになる。旦那としては面白くないので、妾宅に20日、本宅に10日なんて具合になります。
本妻の方ではおさまらない。あんな女がいるからだと真夜中に藁人形を杉の大木へ持っていって五寸釘で打ち付けた。
それを知った妾の方も気丈な女性ですから、あっちが五寸釘ならこっちは六寸の釘でなんて、やっぱり藁人形を打ち付ける。本妻の方も負けてならじと七寸釘を買ってくるなんてことをやっておりますと、本妻、妾両方がころっと逝ってしまった。
しばらくすると、花戸川の立花屋の蔵から火の玉がボーっと浮かんだかと思うと、根岸の方に花戸川の方に飛んでいった。すると根岸の妾宅から火の玉が上がり、花戸川の方に飛んでいく。これが大音寺前でぶつかって火花を散らすというので騒動になった。
旦那としては、万が一火の玉が元で火事でも出してはいけないと、両者の供養をしようと、夜遅く大音寺前に出かけます。九つの鐘がなる頃、根岸の方から火の玉がすーっとやってきて、旦那のまわりを三回まわってピタッと止まる。旦那がタバコを吸おうとキセルを取り出すと、火の玉が心得てましたとばかりに、すっとキセルに火をつけます。
そこへ、花戸川の方から、ゴーッとものすごい勢いで火の玉が飛んできて、旦那のまわりをぐるぐると回り出します。
旦那が再びタバコを吸おうとキセルを取り出すと、火の玉は、
「どうせ、あたしにつけてもらってもおいしくないでしょ、フン」