は の段


初天神

 (はつてんじん)
 逆さ落
 出典:落語百選 冬 (ちくま文庫)

「お前さん、出かけるんなら、金坊を連れて行っておくれよ。家にあの子がいると、悪さばかりして、片づけが進まないんだよ」
「やだよ」
「どうして? お前さんの子だろ」
「あいつ連れて行くと、何か買え買えってうるさいんだよ」
「そんなこと言わずに連れて行っておくれよ」
「やだったら、やだ」
「えへへ、おとっつぁんにおっかさん、喧嘩しちゃいけませんよ」
「誰のせいで喧嘩してると思ってるんだ、こいつは」
「ねぇ、おとっつあん、出かけるんだろ。おいらも連れて行っておくれよ」
「だめだよ」
「そんなつれないこと言わずにさぁ、連れて行ってくれなきゃ、どうなるか知らないよ。ねぇったら。おいらがおとなしく頼んでいる内に連れて行ってくれた方が、いいと思うんだけど……」
「親を脅しやがる。わかったよ。連れてくよ。その代わり、なんにも買わないからな」

 なんてことを言いながら出かけたわけですが、案の定、玩具を買って、飴を買ってとせがみます。父親は、「やっぱり金坊なんか連れてくるんじゃなかった」と愚痴り出しますが、金坊の方は、そんな父親の繰り言をどこ吹く風で聞き流し、「買って、買って」攻撃を続けます。

 落ちは根負けした父親が凧を買ってやり、お手本に自分で凧を揚げたところ、思いのほか面白いので、金坊そっちのけで夢中になって凧揚げをしていると、金坊が一言、

「これだから、おとっつあんを連れてくるんじゃなかった」


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初雪

 (はつゆき) 別名:雪てん」「てん」「雑俳」「歌根問」

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花色木綿

 (はないろもめん) 別名:出来心

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一つ穴

 (ひとつあな)
 仕込落
 出典:落語百選 春 (ちくま文庫)

 権助さんが、おかみさんに呼び出され、旦那さんの浮気調査を命ぜられます。

 調査を終えて戻った権助さんは、浮かない顔をして首をひねるばかりで、なかなか口を開こうとしません。

 たまりかねたおかみさんが、なぜ、話さないのか。店の主人だから気兼ねしているのか。それとも、お前も同じ穴のムジナだから話さないのか、と問いただします。

 そこまでいわれた権助さんは、それでも首をひねりながら、ポツリポツリと話し出します。

「オラが、旦那さぁの後を付けて、横町まで行くと、旦那さぁは、三味線の師匠の家に入んなさった。ハテ、面妖な。旦那さぁは、三味線なんかやらなかったはず、と塀の節穴から覗いてみると、驚いたことに昼間っつーにもかかわらず、旦那さぁと三味線の師匠が裸で布団の上でゴロゴロとじゃれ合ってなさる。その内、旦那さぁが師匠の上になって……」

 そこまで聞くと、おかみさんは、血相を変え、三味線の師匠の家に飛び込みます。

 ちょうどそこでは、旦那さんが三味線の師匠と一仕事終え、ぷかぁーとタバコなんかをのんびりと吸っています。そこへおかみさんが飛び込んできたものだから、もはや言い逃れできません。旦那さんは、おかみさんに平謝り。

 それにしても、一体どうして師匠との仲がばれたのだろうと、旦那さんがいぶかしく思っていると、塀の向こう側から、どうなることかとハラハラして見ている権助を見つけます。さては、あいつが告げ口しやがったなと旦那さんは、権助を叱りつけます。

「おい、権助。お前という奴は。田舎者で右も左も分からないだろうから、仕方なく俺が店に置いてやっているというのに、お前ときたら……。こういうことは、知っていても知らぬ振りをするというのが、主人に対する忠義というものだろう。お前みたいなのを『犬』と言うんだ」

 それを聞いて権助さんは、

「お前さんがた夫婦は、礼儀つうものを知らねえ。さっきは、おかみさんがオラのことをムジナと言ったかと思えば、お前さんはお前さんでオラのことを犬呼ばわりする」


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一目上がり

 (ひとめあがり) 別名:「七福神」「軸ほめ」
 途端落
 出典:落語特選 下 (ちくま文庫)

「ご隠居さん、あそこの床の間に掛かっている掛物。ありゃ一体なんです?」
「あれは画は探幽、芭蕉翁の讃だ。雪折笹と言ってな、ほれ、上に『しなわるるだけは堪えよ雪の竹』と書いてあるだろ。竹を倒している雪は溶けてしまえば跡形もなくなってしまって、倒された竹は元の通りになる。してみれば、ものは堪忍が肝心だという意味が表されているんだ」
「へぇ、こいつは素晴らしいな。日光の日暮らしの門だ」
「なんだい、それは?」
「ほめたんで」
「だからお前はバカだと言われるんだよ。そんな誉め方があるかい。こういう場合は、いい讃だと言うもんだよ。そうすりゃ、お前も少しは見直されるよ」

 これを聞いた熊八、いいことを聞いたと、町内の易者の先生のところに行きます。

「ごめんよ。先生のところの掛軸を見に来たんですが……。そこの掛軸、なんて書いてあるんです」
「これか。これは『仁に遠きものは道に疎し、苦しまざる者は知に于し』と書いてある。遠仁者疎道、不苦者于知と書いて、棒読みすると『おにはそとふくはうち』となる滑稽なものだ」
「はぁ、こいつは結構な讃ですな」
「讃じゃない。これは連詩と言って、詩だな」
「四? 三じゃないんですか」
「詩だね」

「なんだい、隠居は三だというし、易者の先生は四だという。あ、先生、こんちは。先生の所の掛軸みせてもらえませんか」
「ほう。お前さんが掛軸を見るとは。これは『仏は法を売り、祖師は仏を売り、末世の僧は経を売る。汝五尺の身体を売って、一切衆生の煩悩を安んず』と書いてあって、一休禅師の悟だよ」
「五? 四じゃない? 失礼いたしやした」

「おいおい、今度は五だって。三だと言えば四、四だと言えば五。一つずつ上がっていきやがる。するってぇと一つずつあがっていけばいいんだな。おう、半公、お前のところの掛軸見せてくれ」
「いいけど、お前、掛軸なんて分かるのかい?」
「分かるのかいとはご挨拶だな。こう見えても、俺は掛軸の誉め方についちゃ日本一だよ。いいから見せろって。お、今度は絵だけだな。これなら得意だ。なんか変な人間が集まっているな。誰だい、このやたらと頭の長い奴は。福禄神? 子供の時に寝かし付け方が悪かったんだな。可哀想に。こっちのやたらと太っているのは? 布袋和尚っていうのかい。へぇ。こいつはいい六だ」
「なに言ってんだい。これは七福神だよ」


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福助くらべ

 (ふくすけくらべ) 別名:今戸焼

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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 2000/09/15 $