さ の段


雑俳

 (ざっぱい) 別名:雪てん」「てん」「初雪」「歌根問」

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真田小僧

 (さなだこぞう)
 仕込落
 出典:落語百選 秋 (ちくま文庫)

 親子の断絶なんて言われて久しいですが、では昔はどうだったかというと、正直それほど牧歌的なものではなく、もっとシビアなものだったのでは? というのが個人的な見解だったりします。

 僕の個人的な見解はともかくといたしまして。

「まったく、あいつには困ったものだ。さっきもお前が俺の留守中に男を家にあげたと言うから、気になって続きを聞かせろと言うと、100円だと言いやがる。仕方ないから100円払って話を聴くと、またいいところでここから先はもう100円なんて言いやがる。なんだかんだで俺は500円もあいつにやってしまったよ。それで結局なんのことはない、お前が按摩にマッサージを受けてただなんて、親をバカにしてやがる」

「お前さんにもあきれたねぇ。子供に騙されるなんて。でも、うちの子は、近所の中でも智恵者だよ」

「なにが智恵者だ。あれはずるがしこいだけだよ。頭のいい子というのは、例えば真田幸村みたいなのを言うんだ。知ってるか、真田幸村。天目山の戦で武田軍が敗れ、真田の部隊も北条軍に取り囲まれた。もはやここまでと皆が覚悟を決めたときに、幸村は敵の旗を並べ立て、相手が同士討ちをしている隙に逃げ延びた。その時に使った敵の旗が永楽通宝の紋が入ったもの。この旗が六本だったことから、真田家の家紋は六連銭に改めたという。この時、幸村は14だぜ。うちの子と2つしか違わないのに、大したものだ。この後、幸村は豊臣と徳川の戦の時にも大活躍して、最後の大阪落城の時に切腹したとも、薩摩へ落ちたとも言われている……おいおい、あいつ帰ってきやがったよ。そんなところで隠れてないで、こっちへ出てこい」

「えへへ、おとっつあん、さっきはごめんね」
「いけしゃあしゃあと。いいからこっちへ来い。叱言は後だ。さっきのお金、けえしな」
「もう使っちゃった」
「馬鹿言え。そんなにすぐに使えるものか。お菓子を買っても食べ切れねえ」
「お菓子じゃないよ。おいら講釈を聴きに行った」
「俺が講釈を好きだから、そういや喜ぶと思ってやがんな。じゃあ、いいや、どんな話を聴いてきた」
「真田三代記。天王山の戦いで武田勝頼が切腹して、真田の軍も敵に取り囲まれ、もはやこれまでと皆が覚悟したところ、幸村が進み出て、敵の旗を並べ立て、相手の軍が同士討ちをしている隙に逃げ延びたという話だった。ねぇ、おとっつあん、六連銭てどんな紋?」

 親ってのは、馬鹿なものですから、言われたら嬉しくなって50円玉を6枚出してきて、並べてみせる。子供は、感心しながら見ていたが、6枚並べ終わったところで、さっとそのお金を懐に入れて、外に出る。あっと思ったがもう遅い。父親は悔しながらも

「おい、その金でまた講釈を聴きに行くのか」
「違うよ。焼き芋を買うんだ」
「うちの真田も薩摩に落ちた」


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三人無筆

 (さんにんむひつ) 別名:「帳場無筆」「無筆の帳つけ」「向うづけ」
 間抜落
 出典:落語百選 秋 (ちくま文庫)

 昔は読み書きのできない人が多ございました。特に、職人連中は、なまじ字なんか書けると、

「おい、あいつ字が書けるらしいぜ」
「いやな野郎だな。そういや、算盤もできるとか言ってたが、そういうことばっかりやっているから、仕事ができないんだ」

 なんて、悪口を言われるぐらいでして……。

 さて、熊さんが、町内の葬式の段取りに呼ばれました。当時は葬式というと、あなたは酒を配る人、あなたは棺桶を手配する人、なんて町内総出でいろいろとやったものです。さて、熊さんは自分は何の役だろうと待っていると、帳場で記帳する係りだと言われる。おいおい、冗談じゃない、俺は字が書けないと断ろうと思ったが、そこは江戸っ子。頼まれたことをイヤとは言えない。思わず、分かりました、お任せくださいなんて答えてしまった。

 答えたはいいけれど、やっぱり書けないものは書けない。どうしよう、いっそ、夜逃げでもしようかなんて悩んでいると、おかみさんが、馬鹿なこと言ってんじゃないよ、記帳ぐらいで一々夜逃げできますか。それより、あんた一人でやるんじゃないんだろ? 源兵衛さんと一緒? だったら、源兵衛さんに頼んじゃいなさいよ。明日朝早く、お寺に行って、お茶でも出しながら頼めば、源兵衛さんいい人だから、断りゃしないわよ、と知恵を授けてくれます。

 翌朝、言われたとおり朝早くにお寺に行くと、源兵衛さんがもう来ています。さらに悪いことに、源兵衛さんがお茶を出しながら、今日の記帳役、熊さん、あんたやってくれないか、と熊さんが言おうとしたことを先に言われてしまいます。

 江戸っ子にはありがちなことですが、結局、お互い自分にできないことを安請け合いしてしまったことに気がついた二人は、一計を案じ、「記帳は直筆で」というのが遺言だと言うことにしてしまいます。

 このやり方は意外にうまく生き、弔問者は何の疑問も持たずに自分たちで記帳します。熊さんと源兵衛さんはただ座っているだけで仕事になるわけで、こりゃ楽だと喜んでいたところ、半七がやって来ます。この人もやっぱり字が書けない。さて、これは困ったと思っていたところ、源兵衛さんが妙案を思い付きます。

「どうだ、半七、おめえ、来なかったことにしねぇか」


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三方一両損

 (さんぽういちりょうぞん)
 地口落 別名:「三方目出度い」「一両損」
 出典:落語百選 春 (ちくま文庫)

 この噺は、大岡政談の中でも有名な話の一つです。

 有名な話なので、概要だけを簡単に述べると、左官の金太郎が三両もの大金が入った財布を拾います。落とし主は、大工の熊五郎。生粋の江戸っ子の金太郎は猫ばばなんてことは考えもせずに、お金を届けにいきます。ところが、こちらも生粋の江戸っ子である熊五郎の方も受け取りません。熊五郎の言い分としては、一端落とした以上、もはや自分のものじゃないという訳です。

 受け取れ、いや受け取らないと押し問答をしていると大家が仲裁に入りますが、それで話を聞く両人ではありません。結局、お奉行所に行くことになります。時の奉行は、大岡越前守様です。

 双方の言い分を聞いた越前は、三両を預かった上で、一両を加え、両人の正直さの褒美として、それぞれ二両ずつ与えます。その上で曰く、

「熊五郎は、金太郎が届けた金をそのまま受け取れば三両、金太郎は熊五郎が突き返したのを受け取れば三両、奉行は訴えのお金をそのまま受け取れば三両得をしたのに、一両を加えて双方に二両を与えたのだから、三方一両損」

 落ちは、食事をごちそうされ、あまり食べ過ぎるなよとの言葉に、

「えへへ、多かあ(大岡)食わねえ。たった一膳(越前)」

 ここからは余談。ある知識人曰く、

「三方一両損は嘘である。なるほど、金太郎と熊五郎は、一両ずつの損だが、越前は本来三両受け取れたのに、さらに一両与えたのだから、あわせて四両の損のはず」

 ご説ごもっとも。ただし、このお方は、江戸っ子じゃないやね。


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軸ほめ

 (じくほめ) 別名:一目上り」「七福神」

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七福神

 (しちふくじん) 別名:一目上り」「軸ほめ」

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死神

 (しにがみ) 別名:「誉れの幇間」
 仕草落
 出典:落語百選 秋 (ちくま文庫)

 この噺は、落語の中では珍しく、イタリアの歌劇『靴直しクリスピーノ』から翻案されたと言われています。

 噺の概要は、死神から、「病人の枕元に死神がいる場合は助からない。足下に死に神が座っている場合は、ある呪文を唱えると死神が退散し、病気が治る」と聞いた男が、その知識で病人を次々と直し、名医と評判になります。

 そんなある日、佐久間町の伊勢喜という大家の主人の病気を治して欲しいと頼まれます。あいにくなことに死神は枕元に座っている。しかし、高額の報償に目がくらんだ男は、死神が居眠りしている隙に、死神が足下になるように布団を移動させます。するとさっきまでうんうんうなっていた主人が、目を覚まし、男は約束の3000両をもらいます。

 その帰り、死神が男の前に現れ、大変なことをしてくれた。とにかくついてこいと言います。

 言われるままについていくと、人気のない洞穴。中に入っていくと、部屋一面にろうそくが煌々と灯っています。ろうそくの中には、大きく勢いよく燃えているものもあれば、今にも消えそうなものもあります。

 これはなにかと訪ねる男に、死神はにやっと笑って、これは人間の寿命を表しているものだと答えます。ほら、ご覧。あそこに今にも消えそうなのが、お前さんのろうそくだよ。本当はその隣で燃えている長いろうそくがお前さんのものだったのだが、さっき、伊勢喜の主人を助けたおかげで、お前さんのものと交換になったんだよ。

 男は驚き、なんとか助かる方法はないかと死神に泣きつきます。

 死神は、ろうそくの切れ端を持ってきて、これを継ぎ足してみろと言います。

 男は震える手で、消えそうになっているろうそくに、なんとか切れ端を継ぎ足そうとします。

「そんなに震えていると、火が消えるよ。早くしなよ。消えるよ。ふふふ、消えるよ」
「は、はい。今やります。いま……、あぁ、消える」


【注】
 この原話について、当初「靴直しクリビスノ」と書いていましたが、梅光学院大学(旧梅光女学院大学)文学部で教員をされている増子様から、「靴直しクリスピーノ」(原題「Crispino e la Comara」邦訳「クリスピーノと死神」1850年、ヴェネツィア・ガッロ劇場初演)の間違いとの指摘を頂きました。どうやら、ある紹介者が読み間違えたものを、その後の辞書や解説書が踏襲してしまったのだそうです。
 勉強になったと同時に、やはりなんでも原典にあたる手間を惜しむといけないと、反省しました。

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寿限無

 (じゅげむ) 別名:「長名の伜」
 ぶっつけ落
 出典:落語百選 秋 (ちくま文庫)

 落語の中でも、有名な噺の1つが、この寿限無でしょう。実際、僕の所に届くメールの中でも一番問い合わせが多いのが、「寿限無の本当の名前を教えてください」だったりするわけで、今回は、寿限無こと長助君の名前とその由来を書きます。

(本当の名前)
寿限無、寿限無、五劫の摺り切れず、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝る所に住む所、薮ら柑子のぶら柑子、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助

(由来)
 寿限無とは、「寿限り無し」と書いて、死ぬときがないという意味。
 次の五劫の摺り切れですが、3000年に1度天人が下界の巖を衣で撫でて摺り切れてなくなってしまうのを一劫として、それが五劫分でもなくならないということで、数え切れない年になるということ。
 海砂利水魚は、お笑いコンビの名前ではなくて(知っている人いるのか?)、海の砂利と水に棲む魚で、とても獲りつくせないということです。
 水行末、雲行末、風来末は、それぞれ、水の行く末、雲の行く末、風の行く末で、いずれもはるかに果てしがなくめでたいという意味です。
 さらに、衣食住に苦労しないという願いを込めた上で、薮ら柑子のぶら柑子は、春は若葉を生じ、夏は花咲き、秋は実を結び、冬は赤き色を添えて霜を凌ぐというめでたい木にならって、丈夫に育って欲しいという願いを込めます。
 そして、唐土にパイポという国があり、シューリンガンという王様とグーリンダイというお后の間に生まれたポンポコピーとポンポコナという長生きした二人のお姫様の名前を加えて、天長地久からとった長久命と、長く助けるという意味で長助という名前を付けたというもの。

(余談)
 今演じられる場合、落ちは喧嘩してこぶができた長助君の名前を呼んでいる内に、名前があんまりにも長いのでこぶが引っ込んでしまったと落ちを付けますが、僕が初めて聞いた寿限無は、誤って井戸に落ちた長助君を助けようと、名前を呼んでいる内におぼれ死んでしまうというブラックな話だったりします。演者が誰だったのかは、忘れてしまったのですけれど。


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正月丁稚

 (しょうがつでっち) 別名:かつぎや」「かつぎや五兵衛」

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しわい屋

 (しわいや)
 仕草落
 出典:落語百選 夏 (ちくま文庫)

 勘定に細かい人のことを、関西では「かんこま」と言いますが、東京では「しわい」と言うのだそうです。早い話、ケチなわけですが、このお噺は、そうしたお金に細かい人の話の集大成となっています。

 一人が、自分は梅干しだけでご飯を食べられると自慢すれば、もう一人は梅干しを見るだけで食が進むと言います。そうかと思えば、扇を長持ちさせるには、扇子を開けて首を横に振るのがコツと言い出す人、いやいや、それじゃあもったいない。扇は半分だけ開けるのがいいのだと講釈をたれる人もいます。

 さて、ある人が吝兵衛さんのところにお金を貯める方法を教えてもらいにいきました。吝兵衛さんは、男に松の木の枝にぶら下がるように言います。男はいぶかしく思いながら、木の枝につかまります。すると、吝兵衛さんは、左手を放すように言います。男は言われたとおり、左手を放します。次に吝兵衛さんは、小指を放すよう言います。男は小指を放します。次は薬指、その次は中指と吝兵衛さんは、次々と指を放すように言います。そして、いよいよ人差し指を放すよう吝兵衛さんが言います。

 冗談言っちゃいけない。人差し指を放したら、落っこちます、と男が言うと、吝兵衛さんはにっこり微笑みながら、人差し指と親指でわっかを作り、

「わかったかい。どんなことがあっても、これだけは放しちゃいけない」


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千両みかん

 (せんりょうみかん)
 逆さ落
 出典:落語百選 夏 (ちくま文庫)

 日本橋のさる大店の若旦那が、病にかかってしまいました。可愛い跡取り息子のこと、両親はたいそう心配します。医者が言うには、なにか思い煩っているのだろうとのこと。ところが両親がわけを尋ねても、若旦那は恥ずかしがって言おうとしません。

 そこで、昔からの番頭さんが理由を聞き出して欲しいとお願いされます。

 番頭さんが、聞き出したところ、若旦那は、みかんが食べたいとのこと。みかんに恋煩いというのも、かわった病でございます。お金持ちのお坊ちゃんの考えることと言うのは、我々凡人には想像もつかないようで……。

 ともあれ、番頭さんは、若旦那を元気づけようとみかんを買い求めます。

 ところが、季節は真夏。今とは違い、みかんは冬のものと相場が決まっております。あっちこっちの果物屋、八百屋、はては魚屋に掛け合いますが、夏にみかんなんかありっこありません。

 途方に暮れていた番頭さんを見かねた魚屋が、神田の多町に万亀というみかん問屋があって、そこになら1つぐらいみかんがあるんじゃないかと教えてくれます。大喜びで駆けつけたところ、確かにみかんがあるにはあったのですが、値段を聞いてびっくり。1個千両と言われてしまいます。可哀想に、番頭さんは腰を抜かしてしまいました。

 店に戻って旦那に相談したところ、千両で息子の命が助かるのなら安いものだと言われて、ぽんと千両を出します。これでまた、番頭さんは腰を抜かします。

 ともあれ、千両のみかんを買って帰って若旦那に差し出したところ、若旦那はおいしそうにみかんを食べ、見る間に元気を取り戻します。

 10房あるうち、7つまでを食べ終えた若旦那は、残り3つを差し出し、一つは父親、一つは母親、残り一つは番頭さんにあげると言います。

 3房のみかんを持って番頭さんは考えた。みかんにはちょうど10房。ということは1房100両。自分は今300両もの大金を手にしている! そう思った番頭さんは、みかんを3房抱えて、そのまま逃げ出しました。


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粗忽大名

 (そこつだいみょう) 別名:松曳き

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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 2000/08/20 $