ま の段


負け惜しみ

 (まけおしみ)
 途端落
 出典:古典落語 (講談社)

 このお噺を一つの噺として紹介するか、少々悩みました。

 筋そのものは「酢豆腐」と全く同じです。日頃食通ぶっている若旦那をやりこめようと、ダメになった豆腐を食べさせて感想を言わせるというちょっと意地悪なたくらみが、この噺の中心になっています。

 ただ、落ちが酢豆腐とは異なり、最後の最後で若旦那が、

「これは私のような通が食べれば酢豆腐だが、皆さんが食べればただの腐った豆腐」

と気概(?)を見せてくれます。

 どちらの落ちも甲乙付けがたいと思うのは僕だけでしょうか。


【参考】
 「酢豆腐

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万病円

 (まんびょうえん) 別名:「侍の素見」
 地口落
 出典:古典落語 (講談社)

 今でこそ古典芸能に位置づけられていますが、落語というのは、やはり庶民の娯楽です。そうなると、ついつい常日頃威張られている方々をからかいたくなるもので……。

 八さんが、銭湯で気持ちよくくつろいでいると、お武家さんが入ってきました。八さんはちょっと眉を曇らせます。案の定、お武家さんは、何食わぬ顔をしてふんどしを湯船で洗い出します。これだから武士って、いやなんだよと思いつつ、そうはいっても、相手は侍です。下手なことを言って、手打ちにされてはたまったものではありません。八さんは、番台に行き、親父さんに苦情を言います。

 番台の親父さんにしても、八さんの苦情はもっともと思いつつ、やっぱり相手は武士です。おそるおそる湯船には、ふんどしを持ち込まないで欲しいと申し出ます。

 ところが、武士は、じろっと親父をにらみ、湯船には裸ではいるではないか、その裸にまとっているふんどしを湯に入れてはいかんというのは、道理に合わぬと屁理屈を言います。

 このお侍さん、銭湯で嫌がらせをしたのに飽きたらず、饅頭屋、居酒屋と、あちこちを冷やかしていきます。

 そのお侍さんが最後にやってきたのが薬屋さんです。ここでもお侍さんは、なにかとケチをつけます。ところが、ここのご主人が、なかなか頓知のきく人でして、お侍さんの屁理屈をうまく受け流されます。何とかやりこめようとしたお侍さんが、万病円という薬を見つけて、これに難癖をつけ始めます。

「この、万病円というのは、なんだ」
「はい、それは、万の病気を円く治めるというものでございます」
「おかしなことを言うやつじゃ。昔から、病は四百四病と言うではないか。いつから、万に増えた!」
「はい、世の中が変わりますとともに、病もだんだん増えてまいりまして、金病、仮病……」
「それにしても、とうてい万にはならん」
「いえいえ、一つで腸満(兆万)というものもございます」


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晦日の三両

 (みそかのさんりょう) 別名:穴泥

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道行幸兵衛

 (みちゆきこうべえ) 別名:搗屋幸兵衛

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向うづけ

 (むこうづけ) 別名:三人無筆

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無筆の親

 (むひつのおや) 別名:親の無筆

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無筆の帳つけ

 (むひつのちょうつけ) 別名:三人無筆

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目玉違い

 (めだまちがい) 別名:犬の目

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餅屋問答

 (もちやもんどう) 別名:こんにゃく問答

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もと犬

 (もといぬ) 別名:「白狗」
 ぶっつけ落
 出典:古典落語 (講談社)

 その昔、犬は人間に近い存在だと考えられていた時代がありました。特に白犬は、生まれ変わったら人間になると信じられていました。

 その白犬が、生まれ変わってからではなく、どうせなら今すぐ人間になりたいと思い立ち、百度参りを始めました。こけの一念と申しましょうか、ある日気が付いてみると人間になっている。白犬は大喜び。それまで何かと優しくしてもらっていたご隠居さんの家に飛びこみます。

 突然見知らぬ男が、しかも素っ裸で飛びこんできたものですから、ご隠居さんとしても驚いたのですが、そこは人のいいご隠居さん。てっきり地方から出てきて、身ぐるみはがされたのだろうと同情し、仕事の世話をしてやろうと思い立ちます。

 しかし、人間になったとは言うものの、昨日までは犬です。食事の時間になれば、手で皿を押さえて前のめりにがつがつ食べる。急ぐと四つん這いになるなどなど、なんだか様子がおかしい。なにより、服を自分で着ることができない。それはまぁ、つい昨日まで犬だったわけですから当たり前と言えば当たり前なのですが、ご隠居さんの方はまさかつい昨日まで犬だったなんて思ってもいませんから、不思議で仕方ありません。とにかく、服ぐらいは着させないとと思い、

「おーい、もとや、もとはおらぬか。この男に、何か着るものを……、もとや、もとはいぬか」

 すると白犬は

「へぇ、今朝、人間になったところです」


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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 2002/01/05 $