あ の段


あくび指南

 (あくびしなん)別名:「あくびの稽古」
 ぶっつけ落
 出典:古典落語5 金馬・小圓朝集 (ちくま文庫)

 僕の子供の頃(いやまぁ、今でも子供みたいな事してますが)、いろいろとお稽古ごととが流行しました。習字、算盤、ピアノ、野球などなど。どうも、日本人は、根っからのお稽古ごと好きだったようで……

「おい、留さん、すまねぇが、ちょっとつき合ってくれ。実はねぇ、ひとつ稽古してみたいものがあるんだが、一緒に行ってくれないか」
「へぇ? 稽古? お前さんが! なんの稽古なんだい」
「この先、10軒ほど行くと左側にアクビの師匠ができたんだ。あそこへ行って、アクビの稽古をしようと思うんだが、一緒に来てくれよぉ」
「あきれたねぇ。だから、お前さんは馬鹿だと言われるんだよ。どこの誰が、アクビを稽古する? ふざけちゃいけない。あたしゃ、ごめんこうむるよ」
「そんなこと言わずにさぁ。別に一緒に稽古してくれって言うんじゃないんだ。ただ、最初だろぅ。1人だと決まりが悪くて……。ついてきてくれるだけでいいんだ。ねぇ、頼むよ」
「ついてくだけでいいの。あ、そう。じゃあ、一緒に行くよ。でも、どんなことがあっても、稽古はしないよ」

 てなわけで、アクビの先生の所に行ったわけですが、所詮、教わるものが「あくび」です。留さんは、退屈で仕方がありません。オチは、その留さんがアクビしたのを見て師匠が、

「へぇ、この方はご器用だ! 見てただけで覚えた」


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あくびの稽古

 (あくびの稽古) 別名:あくび指南

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明烏

 (あけがらす)
 ぶっつけ落
 出典:古典落語集2 文楽 (ちくま文庫)

 大店のお坊ちゃんがおられまして、この人がずいぶん真面目な人でした。朝早くから店の下働きの者に混じって雑用をしたり、夜は夜で店の者が寝静まってからも、一人仕事をこなすといった具合で、一般に2代目と言うと馬鹿息子が多い中、なかなかたいした人物でした。

 ところが、この人がオクテな人でして、女性の手を握るのはもちろん、面と向かって話すことも恥ずかしがるような人でした。

 この坊ちゃんが、2人の悪友に遊郭へと連れて行かれたからさぁ大変。帰る帰るの大騒ぎ。当時の吉原には大門というのがございまして、ここで吉原に入る人の記録をつけていたのだそうで、不自然なことをして店から出てくると、この大門のところで留め置かれたそうです。ですから、先ほど3人で入ったのに、1人だけ出てきたとなると、なにかあったなと大門のところで留め置かれるのがオチだから、まぁ、今夜一晩だけ付き合いなさい、と諭されて、泣く泣く泊まることになります。

 翌朝、友人2人が若旦那の部屋に行くと、若旦那が布団の中からいっこうに出てきません。痺れを切らした友人2人が、置いていくぞと脅したら、

「帰れるものならお帰りなさい、大門のところで留め置かれるから」

 さて、このお坊ちゃんに昨晩どんなことがあったのでしょう。


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仇討屋

 (あだうちや) 別名:高田の馬場

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愛宕山

 (あたごやま)
 拍子落
 出典:古典落語集2 文楽 (ちくま文庫)

 瓦投げという遊びがございます。
 どういう遊びかというと、瓦を投げて、的を落とすという他愛ない遊びなのですが、昔のお金持ちの方々は、瓦の代わりに小判を投げていたのだそうです。

「ね、このがけの下に瓦投げに使った小判が、たくさんあるんだろ。どうにか拾えないものかなぁ」
「わけないよ。俺が拾ってくる」
「拾ってくるって、50メートル以上はあるんだぜ。無理だって」
「大丈夫、任せて」

 と言って、傘を広げて谷底へ飛び降ります。

「おーい、大丈夫か、怪我はないか」
「大丈夫。おっ、すごいすごい。あちこちに小判が落ちてる」
「小判はいいけど、どうやって上がってくるつもりなんだい」
「しまった、それを考えてなかった」

 そそっかしい話でございますが、ともあれ、当時の愛宕山は、猪や鹿、オオカミなんかもたくさんいたのだそうで、のんびりと考えていられません。
 男は、何を思ったか、着ていたものをくるくるっと脱ぎ、羽織、着物、長襦袢、帯、褌を結んでロープにし、その先に石を結わえて、ひゅーっと投げ上げます。うまい具合に、嵯峨竹に巻き付いた。ぐいぐいとロープを引っ張り、竹が十分しなったところで、えいっとばかりに飛び上がると、ひらりとてっぺんに戻ってきます。

「へぇ、うまいもんだねぇ。ところで、金は?」
「あ、忘れてきた」


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あたま山

 (あたまやま) 別名:「あたま山の花見」「桜ん坊」
 逆さ落
 出典:古典落語7 正蔵・三木助集 (ちくま文庫)

 『徒然草』の「堀池の僧正」をご存知の方なら、この噺の題名を聞いてピンときたのではないでしょうか。お察しの通り、例のあの話です。

 「堀池の僧正」をご存知ない方のために、話の筋を簡単に紹介すると、サクランボの種を食べた男の頭から、にょきにょきと大きな桜の木がはえてきて、皆がその下で、ドンチャンドンチャンとにぎやかに花見を始めます。うるさがった男が桜の木を引き抜くと、後にはポッカリと大きな穴が。この穴に雨水がたまり、いつしかフナだのドジョウだのがすみつきます。すると、子供が釣りに来て、朝から晩まで笑ったり、泣いたり、わめいたり。中には石を放り込んだりするものまでいて、こううるさくちゃ、たまらないと、男は頭の池にドブンと身投げするという、実にバカバカしく、くだらない話でして、洒落っ気というものを解さない人には、なにが面白いのかさっぱり分からず、ポカンとすることになります。

 そう言えば、この噺の題名は「あたま山」ではなく、「あたま池」というべきではないかと言い出す人がいましたが、いやはや。


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あたま山の花見

 (あたまやまのはなみ) 別名:あたま山」「桜ん坊」

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言訳座頭

 (いいわけざとう)
 ぶっつけ落
 出典:古典落語6 小さん集 (ちくま文庫)

 江戸っ子と言えば宵越しの金を持たないものと相場が決まっています。例えば、

江戸っ子の生まれぞこない金を溜め

などという川柳があるぐらい、江戸っ子の金離れの良さは定評があるようでして、そうすると、今、東京でお金持の方々というのは、江戸っ子の生まれぞこないか、はたまた地方出身者かなどと思ったりしますが、脱線話はこのくらいにして。

 さて、宵越しの金を持ず、明日は明日の風が吹くなんていっている江戸っ子ですが、彼らでもどうしようもないのが大晦日でして、どうにかなるよで通してきた1年365日分がこの日に降りかかってくるわけです。この大晦日、借りた方も大変ですが、貸した方も大変。そこかしこで虚々実々の駆け引きが繰り広げられることになります。

 この言訳座頭というのは、返せないことを他人に代わっていろいろと言い訳してくれる大変ありがたい人物です。泣き落とし、居直り、なんだか訳の分かるような分からないような理屈を並べ立てて相手を煙に巻いたりと、様々な手練手管、口八丁を見せてくれます。

 オチは、頼まれた分の言い訳をしてから、

「これから私の分の言い訳をしてきます」


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家見舞

 (いえみまい) 別名:肥瓶

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池田大助

 (いけだだいすけ) 別名:佐々木政談

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池田の牛ほめ

 (いけだのうしほめ) 別名:牛ほめ

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居酒屋

 (いざかや) 別名:「ずっこけ」「ないものねだり」「二日酔い」
 ぶっつけ落(逆さ落)
 出典:古典落語5 金馬・小圓朝集 (ちくま文庫)

 日本に限らず、どうも人間はアルコールなしにはいられないようでして、まぁ、適度なお酒は、体にいいそうなのですが、なかなか「適度」なんて言ってられないもので、ついつい度が過ぎるものです。ちなみにかくいう僕は、すぐに酔っぱらってしまいます。ここの紹介文のいくつかも酔っぱらって訳が分からなくなりながら書いてるものもあるほどでして……

 お酒に酔うと、普段の癖が出るもので、これが上戸と言われるものです。俗に、居眠り上戸に薬上戸、壁塗り上戸に仏上戸、笑い上戸。まぁ、笑い上戸というのは陽気でよいものですが、これも時と場合によりけりです。僕なんかも経験があるのですが、これは無性におかしくなります。大したことがあるわけじゃないのですが、やれ猫が盛ってるとか、お巡りさんが交通整理をしてると言っては笑い、ケンタッキー・フライドチキンの人形が真っ白だと言っては囃し立て、挙げ句の果てには、隣の人の顔を見て転げ回ると、これなんか大変失礼な話です。いやはや、全く正気の沙汰ではございません。

 とは言うものの、アルコールが入れば、絶対に酔うというものではないようで、やはりその場の雰囲気や気分に大きく左右されるようです。気のおけない友人達と、鍋でもつつきながら、馬鹿話をしたり、歌ったりしてると、ひとなめした程度で酔えるものですが、これが分不相応の料理屋なんかだと、なんとなく店の雰囲気にのまれて、ちょっと酔えません。ましてや、目上の人や、ご婦人のお供なんかでは、めったやたらと酔えないものでして、酔いが回る頃には帰りの列車の中、なんてことになります。おかげで、列車を乗り過ごしたり、反対行きの列車に乗って、終点で慌てふためくなんてこともしばしばです。もっとも、女性と一緒といっても、ひそかに好意を寄せている女性でしたら、酔った振りをして、よろけてみたりするのですけれど。ただ困ったことに、酔った振りのつもりが、いつの間にか本当に酔っ払ってしまって、前後不覚なんてことになって、翌日、何度ホゾを噛むことになったか、数えればきりがありません。

 などと話していたら、すっかり長くなってしまいました。もう、居酒屋を紹介するスペースがありません。申し訳ありませんが、ここまでと言うことで。


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石返し

 (いしがえし) 別名:「鍋屋敷」
 地口落
 出典:古典落語6 小さん集 (ちくま文庫)

 このお話は、笑い話というよりは、どちらかというと、江戸時代の侍に対して町人の恨みつらみを代弁してくれるといった趣を持っています。

 話の筋は、武家屋敷にうどんを売りに行ったところ、支払いを断られたので、今度は汁粉と称して餅の代わりに石を入れたものを売りつけるというものです。

 オチは、石を返した行為と「意趣返し」をかけたもの。


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一眼国

 (いちがんこく)
 逆さ落
 出典:古典落語集7 正蔵・三木助 (ちくま文庫)

 昔は、両国橋をはさみまして、西側の日本橋は寄席がありましたし、大道商人もたくさん出ておりました。東側はというと、本所の回向院を中心にずらっと見世物小屋が立ち並んでおりまして、こちらはこちらでたいそう賑わっておりました。

 この見世物小屋というのは、大小様々に趣向を凝らして、客を集めていたのですが、中には「もぎどりの小屋」と言いまして、木戸銭さえ取ってしまえば、あとはもういっさい関係ないなんて、薄情な小屋もありまして、目が三つで、歯が二本の生き物がいると聞いて中に入ってみると、下駄が転がっている。確かに、目が三つで、歯は二本ですけれども。

 また、鬼娘の小屋というのもございまして、こちらは小屋の中に入ると、鶏の裂いたのやら、ヘビのむしったの、カエルやらが散らばっている中に、女性が1人、すごい形相をして座っている。髪は何年も洗ってないようなぼさぼさで、そこからにゅっと角が生えている。これが赤ん坊を生で食べるという趣向になっているのですが、まぁ、実際には食べる訳ではありませんで、食べようという寸前で止めの手が入ることになっています。それでも、随分薄気味悪くて、見世物小屋の中では人気の小屋の1つでした。

 あと、蛇女というのも、人気がありまして、どんなものかと期待して入ってみると、大きな青大将と年増の女がいるだけ。だまされたと怒って、呼び込みの男に文句を言いに行くと、男は黙って看板を指す。よーく看板をみると、蛇女の間に小さく「と」の字が書いてあります。「蛇と女」だったわけで、これまたしてやられたなんてことになります。

 男が、代官所に引き立てられてきます。罪状は、かどわかしの罪。取り調べが始まり、男が江戸から来たこと、仕事は香具師をしていることなど次第に素性が明らかになってきます。そこで顔を上げた男の面をみて、取り調べに当たっていた役人達は驚愕することになります。

「この男には、目が2つある!」
「取り調べは後回しだ、早速、見世物に出せ」

 一眼国でございました。


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井戸の茶碗

 (いどのちゃわん) 別名:「茶碗屋敷」
 ぶっつけ落
 出典:古典落語1 志ん生集 (ちくま文庫)

 昔、あるところに真面目な武士がおりまして、古道具屋で買った仏像から50両もの小判が出てきたのですが、自分は、仏像を買ったのであって、小判を買った訳ではないから、小判は持ち主に返すと言い出します。
 ところが、仏像の元の持ち主も、なかなかの堅物で、いったん売ってしまったのだから、そんなお金は受け取れないとの一点張り。
 とりあえず、大家の仲裁で、元の持ち主が古い茶碗を渡して、その代金として半分の25両を受け取ることで収まります。

 ところが。

 ただの古い茶碗だと思ったところ、磨いてみると名器「井戸の茶碗」だったから、さぁ大変。再び、返す、返さないでもめます。

 オチは、この真面目な武士が、妻をもらうことになって、周囲から「磨けばきっと美人になる」と言われたのに対して、

「磨くのはよそう。また小判が出るといけない」


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居残り

 (いのこり) 別名:居残り佐平次」「おこわ」

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居残り佐兵次

 (いのこりさへいじ) 別名:「居残り」「おこわ」
 見立て落
 出典:古典落語集3 圓生 (ちくま文庫)

 昔の郭では、お金を払えない客を、金の工面がつくまで行灯部屋に閉じこめておくということをしました。これを居残りと言います。

 佐兵次さんは、汚い自分の家でごろごろしているよりは、きれいな品川の女郎屋の方がよっぽどましと、大いに飲み食いし、大いに楽しんだあげく、さっさと居残りを決め込みます。

 こういう大胆な人ですから、居残りにもかかわらず、お座敷に顔を出しては、他の客を接待し、一緒に楽しんで、なかなか快適な生活を続けます。

 見かねた店の者が、頼むから帰ってくれとお金を渡し、とにかく帰すという本末転倒の見本のようなお噺です。

 とりあえず、教訓。世の中、図々しいぐらいの方が楽しめる。


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祝いの瓶

 (いわいのかめ) 別名:肥瓶」「家見舞」「新宅祝い」

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入れ髪

 (いれがみ) 別名:品川心中

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入れ眼の景清

 (いれめのかげきよ) 別名:景清」「めくら景清」

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陰嚢

 (いんのう) 別名:夢金」「欲の熊蔵」

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浮かれの掛取り

 (うかれのかけとり) 別名:掛取万歳」「掛取り」「掛万」

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浮世床

 (うきよどこ) 別名:「片側町」
 ぶっつけ落
 出典:古典落語集4 圓生 (ちくま文庫)

 その昔、床屋さんと言えば、ちょっとした社交場の役割も果たしておりました。漫画や雑誌は勿論、将棋盤や囲碁盤なんかもあって、町内の暇をもてあました連中が、時間つぶしにもってこいの場所となっていました。娯楽が少なかった時代の話です。

 この噺は、そんな床屋での客同士の馬鹿なやりとりを面白おかしく演じる物になっています。

 落ちは、そんな客のやりとりに気を取られた店主が、

「しまった、さっきまでそこにいた、あいつから金を取るのを忘れた」
「誰だい? あぁ、畳屋の熊公か」
「なに、畳屋? どうりで床を踏みに来たんだ」


【参照】
 床を踏む(畳を作る)と(代金を)踏倒すことをかけている。

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浮世根問

 (うきよねどい) 別名:「やかん」「無学者」「無学者論」
 出典:古典落語6 小さん集 (ちくま文庫)

 昔は物知り隠居に代表されるますように、「老人」と言えば「物知り」と同義だったわけです。とは言うものの、実際にはそうそう物知りな年寄りばかりではないわけでして、周囲の期待に応えるべく、少ない知識を総動員して、妖しげなゴタクを述べなければならないと、それはそれで、昔の老人も大変だったわけです。

 こうしたナマ物識りの隠居の話は様々あり、同種の噺を付けたり削ったりすることで、内容は様々なものができます。
 やかんの名前の由来を聞かれて、あれはもともと武将の兜だったと突飛なことを言い出して、矢が当たってもカーンと弾いたことから「ヤカン」と言ってみたり、婚礼の儀式の蘊蓄をたれてみたり、宇宙の果てはどうなってるか、地獄極楽はどこにあるか等など。

 当然、それぞれに対応するオチがあるわけですが、有名なものとしては、極楽はどこかとたずねられた隠居が、仏壇を指し、それなら鶴や亀も死んだら、仏壇の仏さんになるのかと問われて、「鶴亀は、この通り蝋燭立てになっている」


【参考】
 根問いものには、他に「千早振る」が有名。

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丑の時詣り

 (うしのときまいり) 別名:藁人形

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牛ほめ

 (うしほめ) 別名:「池田の牛ほめ」

 間抜落
 出典:古典落語5 金馬・小圓朝集 (ちくま文庫)

「与太郎、こっちへ来な。おまえは今年で何歳になる」
「20だ」
「だから、おまえは馬鹿だといわれるんだよ。世の中に20なんて歳があるか。そういう場合は“はたち”と言うんだよ。まぁ、いいや。親戚のおじさんが家を立て直したから、お祝いに行っといで。くれぐれもそそうのないように、と言ってもおまえのことだから……。いいかい、今から教えてやるから、余計なことを言うんじゃないよ。まず、家に着いたら、挨拶してから中に入る。戸はちゃんと閉めるんだよ。中に入ったら、周囲を見回して『結構なご普請ですなぁ。家は総体ひのき造り、天井は薩摩の鶉木理、左右の壁は砂摺り、畳は備後表の五分縁。』これだけのことを言えば、いいんだ」
「そんなにたくさん覚えられないよ」
「しかたないやつだなぁ。紙に書いてやるよ。それから、台所に通されたら、柱に大きな節穴がある。おじさんは、これを気にしてるようだから、『そんなに気にすることないですよ。ここに秋葉様のお札を貼っておいたら、節穴も隠れますし、火の用心にもなります』と、こう言うんだ。いいな」

 といった具合で、与太郎は、おじさんの家に行き、無事に家を誉めるのですが、すっかり気をよくしたおじさんは、飼ってる牛を見ていけといいます。さて、どうやって誉めようかと思案している与太郎の前で、牛はのんきにポタポタと糞をたれます。それをみて、

「あの穴に、秋葉様のお札を貼って……」


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うどん屋

 (うどんや) 別名:「風うどん」

 途端落
 出典:古典落語6 小さん集 (ちくま文庫)

 商売というのは、いろいろとコツがあるものでして、例えば屑屋さんなんかだと、大声で呼ばれたときは、それほど大したものは見込めない。むしろ小声で呼ばれたときの方が掘り出し物があるのだそうです。

 同じく小声で呼ばれた方がいいのが、夜泣きソバ屋さんで、お店の小僧さん達が主人に隠れて食べたのだそうです。こういう時は、ソバ屋の方も心得たもので、大声で「はいよ」なんて返事するのではなく、こっそりと持ち込まないといけません。もっとも、小声で呼ばれたからといって、いつもいつも儲かるとは限らないようでして……

(小声で) ちょっと、うどん屋さん」
(やはり小声で) へい、うどんを差し上げましょうか」
(小声で) うんと熱いのを1つ」
(やはり小声で) へい、わかりやした。(独り言) この人はきっと試しに食べるんだな。うまかったら、みんなが代わりばんこに出てきて食べようってのに違いない。ようし、ここはひとつうんとうまくこしらえておこう。(小声で) お待ちどうさま」
(小声で) ごちそうさま。お代はここに置いておきます」
(小声で) ありがとうございます」
(小声で) うどん屋さん」
(身を乗り出して、しかし小声で) へい、なんでしょ」
「お前さんも風邪かい?」


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鰻の幇間

 (うなぎのたいこ) 別名:「鰻屋の幇間」

 間抜落
 出典:古典落語集2 文楽 (ちくま文庫)

 仕事というと、これがなかなかやさしい仕事というのはございません。芸人の中でも一番難しいのが、幇間、つまり「たいこもち」なのだそうで……。

「ちょっと、大将、大将ってば。お出かけですか。鰻を食べに。ようございますなぁ。あちきも、ご一緒させてはもらえないでしょうか? いいですか。さすがは大将、太っ腹でございますな。男はこうでなくちゃいけないですよ。あ、ここですね。さすが、大将。通ですなぁ。こういう見た目がみすぼらしいところの方が、おいしいんですよね。おぅ、出てきましたよ。早いね。温かいうちに頂戴いたしましょう。ともあれ、お酌をしましょ、お酌。あ、大将、どちらへ? 厠ですか。家来もお供を……」

 なんて、騒々しいことを言っていると、大体において嫌がられるもので、男は幇間持ちを残してトイレに行きます。幇間持ちは鬼の居ぬ間の何とやらで、鰻を食べ、お酒を飲み、一人で楽しんでいたのですが、男がいっこうに帰ってこないので、心配になって女中に尋ねると、男はとっくに帰ったと言います。しかも、勘定もまだ。悪いことは重なるもので、男はみやげに3人分の鰻を持って帰っておりまして、その分も払うことになってしまいます。さらに追い打ちをかけるように、

「俺の履き物は、どこに行った。あの5円の下駄」
「あれなら、お連れさんがお履きになりました」

 世の中、上には上がいるという噺でございました。


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鰻屋の幇間

 (うなぎやのたいこ) 別名:鰻の幇間

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馬のす

 (うまのす)
 途端落
 出典:古典落語集2 文楽 (ちくま文庫)

 僕のような気の短い人間にとって、釣りが趣味というのは、信じられないことなのですが、それはともかく、「馬のす」です。「馬のす」というのは、馬のしっぽの毛のことです。

 さて、釣り好きの徳さんが、ある日いつものように釣りに出かけようとしたところ、あいにく釣り糸がこんがらがってしまって、使い物になりません。ちょうど、そこへ白馬が通りかかったので、尻尾の毛を失敬して、釣り糸にします。

 するとどうでしょう、その日は大漁。大喜びの徳さんは、友人に自慢します。

 ところが、友人は浮かない顔をして、徳さんの話を聞いています。

「なんか、おかしなことあるかい」
「本当に、馬の尻尾の毛、抜いたの?」
「あぁ、それがどうした」
「白馬だろ?」
「白馬だよ」
「えらいことしたなぁ」
「抜いちゃいけないかい」
「いけないもなにも……。知らぬが仏とはこのことだよ」
「おいおい、脅かすなよ。馬の尻尾を抜くと、どうなるんだい。教えてくれよ」

 というわけで、徳さんは、馬の尻尾を抜くとどうなるか聞き出そうと、酒を振る舞います。友人は、出された酒をうまそうに飲み、枝豆を食べ、また酒を飲み……といつまでたっても話し出しません。

 しびれを切らした徳さんは、

「おい、いい加減に教えてくれよ。馬の尻尾を抜くとどうなるんだい」
「馬の尻尾を抜くとね」
「うん」
「馬が痛がるんだよ」


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厩火事

 (うまやかじ) 別名:「厩焼けたり」
 途端落
 出典:古典落語集2 文楽 (ちくま文庫)

 男なら誰しも一度はあこがれるのが、「ヒモ」でございます。あれは、いいものですね。まず食事の心配をしなくてもいい。それでもって、働かなくても暮らしていける。なにより、情の深い女性がそばにいてくれるわけですから、男としてこれ以上恵まれたことがあるでしょうか。

 ともあれ。

 論語に、

「厩焚けたり、子朝より退き、人は傷つけざるやとのみ言いて、問いたまわず」

という話があります。これは、厩が火事になり、主人が大事にしていた名馬が焼け死んだにもかかわらず、仕事から帰ってきた主人は、家中の者に怪我はなかったかとだけ聞き、馬が死んだことについて誰もとがめなかったという話でして、上に立つ者はこうではなくてはいけないという話です。

 他方で、茶碗を運んでいた妻が目眩を起こして倒れたところ、まず茶碗が割れなかったかと聞いた夫は、離縁されても仕方ない。

 こんな話を聞いた、髪結いの女性が、年下の夫が、はたして自分を愛してくれているのだろうかと一計を案じて、夫の目の前で茶碗を割って見せます。すると夫は、怪我がなかったかと血相を変えて飛んできます。喜んだ女性が、

「お前さんは、普段、つっけんどんだけど、やっぱり私のことを愛してくれていたんだねぇ」
「当たり前じゃないか。お前が怪我でもしてみろ、明日から遊んで酒を飲むことができない」


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厩焼けたり

 (うまややけたり) 別名:厩火事

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えびっちゃま

 (えびっちゃま) 別名:包丁」「庖丁の間男」

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王子の幇間

 (おうじのたいこ)
 間抜落
 出典:古典落語集2 文楽 (ちくま文庫)

 世の中には人の陰口が好きな人がおります。

「ねぇ、奥さん、聞きましたか。お宅の旦那。世の中にはひどい人がいるものだ。こんなに立派な奥様だというのに、稲川の花魁を囲って。それだけならいいんですよ。浮気も甲斐性の内だと言いますからね。でも、あなたのような貞淑な奥様を追い出して、花魁を内に入れようだなんて……。この世には神も仏もいないんですかね」
「平助さん、泣いてくれるのは嬉しいけど、目のところに茶殻がついてますよ」
「あたくしは、悲しくなると、茶殻が出るんで」
「なにを馬鹿なことを」


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大岡裁き

 (おおおかさばき) 別名:大工調べ

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大原女

 (おおはらおんな) 別名:干物箱」「吹替息子」「作生」「善公の声色」「身代り」

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大山詣り

 (おおやままいり) 別名:「百人坊主」「大山詣で」
 地口落
 出典:古典落語集3 圓生 (ちくま文庫)

 そこに山があるから登ったなんてことを言いますが、昔は、山に登ると言えば、信心からと相場が決まっていました。もっとも、江戸も後期になると、物見遊山の口実にしていたという人もおり、行く先々で、どんちゃん騒ぎなんてこともザラでございました。

 さて、長屋の男連中が、大山に登ることになりました。行きはどうと言うこともなかったのですが、帰りにホッとしたのか、酒が入ってしまいます。こうなると、いけません。先に酔いつぶれた熊さんの髪を、悪ふざけで剃ってしまいます。

 朝起きて、自分が坊主になっていることに驚いた熊さんは、してやられたと悔しがります。しかし、同じことを仕返ししても、芸がありません。一計を案じた熊さんは、一足先に江戸に戻り、おかみさん連中を集めます。そして言うには、道中、川を渡ろうとしたところ、天候が急に崩れて、船が転覆し、岸にたどり着けたのは自分だけ。ついては、友人の供養にと、頭をまるめた。これを聞いて、おかみさん達は、自分たちも夫の供養にと、髪を剃って尼になります。

 帰ってきた長屋の連中は、自分たちの妻が全員、尼になっていることにびっくりします。

 それを見て、熊さんは、大笑いしながら、

「みんな毛が(怪我)なくて良かった」


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おこわ

 (おこわ) 別名:居残り佐平次」「居残り」

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お茶汲み

 (おちゃくみ) 別名:「涙の茶」「女郎の茶」
 仕込み落
 出典:古典落語1 志ん生集 集 (ちくま文庫)

 色町での遊びの醍醐味は、騙しだまされといった、お客と女性の駆け引きにつきます。

 女性の方は、とにかく客に何度も足を運ばせようと、時には優しくしたり、すねてみたりと、手練手管を駆使して、男性をとりこにしようとし、男性は男性で、楽しく(なるべく安く)遊ぼうとして、時には……と言いたいところですが、どうも男性陣は旗色が悪そうですね。少なくとも、女性をうまくだませたことがない、というか、だまされっぱなしの僕には、ちょっとうまくだます方法を思い付きません。

 ともあれ。

 この噺は、そうした色町のキツネとタヌキのばかしあいを面白おかしく描いたものです。

 なお、題名に使われている「お茶」は、涙を演出する小道具としてポピュラーな存在でして、オチはそれを踏まえて、嘘泣きを始めた相手に「お茶を汲んできてあげよう」と言うもの。

 ところで、ここで問題。お茶を汲みに行ったのは、男性・女性どちらでしょう?


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お直し

 (おなおし)
 逆さ落
 出典:古典落語1 志ん生集 (ちくま文庫)

 え〜、これからしばらく色事に関するお噺が続きます。と言っても、これを Web でご覧になっている方には、あまり関係ないのですけれど。

 さて、昔の遊郭というのは、時間制でございまして、線香が1本消えるごとに料金が上がるという仕組になっておりました。これを「お直し」と言います。まぁ、この辺は、今でもあまり変わりないのでしょうけれど。

 それはともかく、この噺は、自分の奥さんを売春させるという話でして、話そのものは、今でも通用するぐらいドロドロしたものになります。

 オチは、奥さんが浮気しているんじゃないかとヤキモチを焼いた夫が、客の前で夫婦喧嘩をして、すったもんだした挙げ句、仲直りをするかどうかで、お客が、

「お前さん、直してもらいなよ」


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お化け長屋

 (おばけながや) 別名:「借家怪談」「化物長屋」
 ぶっつけ落
 出典:古典落語1 志ん生集 (ちくま文庫)

 長屋の大家と住人の関係は、結構シビアなものでして、空き家があると、大家の方も遠慮して家賃のことなんかも、それほどやかましく言わないのですが、空き家がだんだんふさがっていくと、

「いやなら、出てってくれてもいいんだよ」

と言ったあんばいでして、長屋の者にとっては、あまり好ましくないことになります。

 そんな訳で、新しい住人が住みつかないように、長屋の住人が一致団結して、空き家を「化け物屋敷」にして、あの手この手を使って追い出しにかかるというのがこのお噺。

 オチは、一人残った男に対して、

「度胸があるなぁ」
「いえ、腰の方は、とっくに逃げ出してしまいました」


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親子酒

 (おやこざけ)
 ぶっつけ落
 出典:古典落語1 志ん生集 (ちくま文庫)

 お酒は、強い人と弱い人とでは、大きな差があります。うわばみの様な人がいるかと思うと、弱い人は匂いをかいだだけで酔ってしまったり、さらにお酒の話をしただけで酔うなんて人もいる訳で……。

 この噺は、お酒で失敗した親子が、お互いに禁酒を約束したものの、結局、誘惑に負けて飲んでしまうというもの。

 オチは、父親が、酔って帰ってきた息子を叱りつけて、

「馬鹿野郎。どうしてあれほど言ったのに、飲んでくるんだ。お酒を飲むから、お前の顔が7つにも、8つにも見える。そんな化け物に財産が譲れるか」
「いらないよ。こんなぐるぐる回ってる家をもらったってしょうがないや」


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女の子別れ

 (おんなのこわかれ) 別名:子別れ「子は餅」

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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 1998/09/27 $