ゲームソフトの中古販売問題を称して「花見酒」と言った人がいて、まさに言い得て妙だと思わずニヤリとしたのですが、その場に居合わせた多くの人は真面目な方ばかりだったので、ポカンとされていました。
ともあれ、花見酒です。
二人の兄弟が、向島の花見客に酒を売ろうと、酒樽を担いで出かけたところ、途中で弟の方が10銭払うから酒を一杯売ってくれと言います。兄は10銭を受け取って、弟に酒を売ります。しばらく行くと、今度は兄が先ほど受け取った10銭で、弟から酒を買います。またしばらく行くと、弟が10銭で酒を買い、また今度は兄が酒を買い……ということを繰り返していると、向島に付いた頃には、酒樽はカラッポ。本日の売上げはしめて10銭ということになります。
僕がニヤっとした理由、お分かりになられました?
欧米には、ハロウィンに代表されるような仮装大会がありますが、その昔、日本でもお花見の時期なんかには、変装仮装して楽しんでいたのだそうです。そうした茶番用の小道具や貸衣装屋なんてものまであったっそうですから、なんとものんびりした話です。
「花見に行こうと思うんだが、なんか面白い趣向はないかなぁ」
「そうだなぁ。こういうのはどうだい。浪人1人と、巡礼2人、それに六十六部(ろくぶ)が1人の合計4人で、やるんだけど、まず浪人が道の脇で煙草を吸ってるところへ、巡礼2人が火を借りに来る。火を付けようと顔を見合わせたところで、一足あとに跳び下がって仇討ちのセリフになる。
『やあ珍しや。汝はなんの某よな。何年以前国許において、我が父を討って立ち退きし大悪人。ここで逢ったが盲亀の浮木憂曇華の花待ち得たる今日の対面。いざ立ち上がって、親の仇だ。尋常に勝負、勝負』
ってな具合で、チャンバラが始まる。そうすると見物が集まるだろう。頃合を見計らって、六十六部が『しばらく、しばらく』と割って入る。『仇だ仇だと付けねらったら数限りのないものです。どうぞこの場は、あたくしにおまかせ下さい』そう言って、酒、肴を取り出す。今まで本当の仇討ちだと思って手に汗握って見ていた見物が、『なんだ花見の趣向だ』とひっくり返る。とこういう筋なんだが、面白いだろう」
てなこと言い出して、早速、仇討ちの用意をして、花見に出かけます。
ところが間の悪いことに、仇討ちの真似事をやってるところへ、本当の仇討ちだと勘違いした侍が、助太刀をかってでます。こっちはただの町人、むこうは本物の侍ですから、はじめから勝負にならない。これはたまったものじゃないと逃げ出す。
オチは、侍が「勝負は、五分だ!」と巡礼役を勇気づけるのに対して、「肝心の六十六部(ろくぶ)がまいりません」
その昔、反魂香という薬がございまして、心を込めてこれを火にくべると、死んだ人に会えるというものでした。この薬、一時期大流行いたしまして、川柳なんかでも、
忘れかね反魂丹を焚いてみる
と詠われたほどです。
さて、長屋に夫婦が住んでいまして、夫の方はちょっと間が抜けているのですが、奥さんは、なかなかしっかり者の美人で長屋中の評判でございました。ところが、美人薄命と言いますか、流行り病にあって、奥さんの方は亡くなってしまいます。
落胆した男は、いっそ自分もあの世へなどと考えますが、まだまだ色々と未練があります。なにか奥さんに会える方法はないかと考えていたところ、反魂香の存在を知ります。
夜中に男がいろりに火を入れ、薬屋で買ってきた反魂香をくべると、黄色い煙がすぅっとたちます。もうひとくべすると、また黄色い煙がひとすじ天井まで立ち上ります。嬉しくなった男が、買ってきた反魂香を全部いろりにくべると、部屋中もうもうと黄色い煙でいっぱいになり、男はけむくて咳き込むやら、涙が出るやらで訳が分からなくなりつつ、奥さんが現れるのを今か今かと待ち受けていると、表で戸を叩く音がします。喜びで転がるように急いで扉を開けると、長屋の者が雁首そろえて、
「なんかきな臭いけど、火事かい?」
お酒というのは面白いもので、酔うと普段とは全然違う性格になってしまう方がおられます。ひょっとすると僕も、性格が変わるタイプなのかもしれませんが、あいにく僕は性格が変わる前に眠くなってしまうようで……。
留さんが道を歩いていると、仲のいい熊さんが手招きをしています。なんだ、なんだと寄っていくと、いいお酒が手に入ったから一緒に飲まないかとのこと。もちろん、留さんに異存あろうはずがありません。
熊さんは、奥から一升瓶を引っ張り出してきます。留さんは、気を利かして、お作りを買いに行きます。
楽しい酒盛りが始まり、まずはお酒の持ち主である熊さんが一杯いきます。おいしそうに飲み干した熊さんは、湯飲みに酒をつぎ、さて今度は留さんが、一杯もらおうと楽しみにしていると、そのままぐいっと飲み干してしまいます。せっかくの楽しい酒盛りです。一杯や二杯のことで文句を言うようなしけたことは留さんはいたしません。だいいち、お酒は熊さんのものです。向こうが二杯飲んで、こちらが一杯というのが、マナーというものでしょう、と留さんは、自分を納得させ、次こそはと楽しみに待ちます。
熊さんは、そんな留さんの気持ちを知ってか知らずか、今度はジャブジャブと酒をなみなみ湯飲みにつぎます。やっぱり熊さんは俺の親友だ。あんなにたくさんついでくれる、と留さんが感謝していると、熊さんは、そのまま湯飲みを自分の口に運んでしまいます。
そんなことが何回か続くと、だんだん留さんも腹が立ってきます。そして、とうとう
「てやんでぇ、こちとら江戸っ子でい。酒なんて、家に帰れば浴びるほどあるんだい。畜生。おめぇの酒なんかいらねえよ」
と怒って出ていってしまいます。
一人残された熊さん。
「なんだ、あいつは怒り上戸だったのか」
世の中には器用な人がいるもので、カラオケなんかで、びっくりするぐらいうまく歌われる方がおられるかと思うと、プロ顔負けの手品を披露する人もおられます。
さて、その昔、善さんといって、たいそう物まねのうまい人がいました。彼は気のいい人で、有名人の物まねから、動物の物まねまで、頼まれれば嬉しそうに物まねをするような人でした。
「善さん、今晩うちに来て、俺の物まねをしてくれないかなぁ」
「それは構いませんけど、なんでまた、あなたの物まねを?」
「今晩、ちょっと野暮用で出かけるんだけど、親父がうるさくて。悪いんだけど、親父が話しかけたら、『お父っつぁん、眠うございますから、お休みなさい』か、なんか言って、適当にあしらってくれないかねぇ」
悪いヤツがいたもので。
ともあれ、夜遊びに出かけた若旦那の代わりに、善さんは、声色を使って、あたかも本人が部屋の中にいるように振る舞っていたのですが、悪いことはできないもので、とうとう見つかってしまいます。そこへ、忘れ物を取りに帰ってきた若旦那が、<
「善さん、タンスの中の紙入れ、取ってくれないか。おーい、善さん、聞こえてるかい」
「この馬鹿野郎。こんな夜中に、どこほっつき歩いてんだい」
「あはは、善さんは器用だなぁ。親父そっくりだ」
その昔は、番頭さんというのは、大変力を持っていたのだそうで、主人は、店の方にはほとんど顔を出さない。番頭さんが一切合切を取り仕切っていたのだそうです。
さて、あるところに非常に几帳面な番頭さんがおりました。
ところが、この番頭さん、仕事の時は生真面目を絵に描いたような人なのですが、これがなかなか遊び上手な人で、休みの日なんかは、芸者遊びなんかもぱっとやってしまうような人でした。
その番頭さんが、いつものように休みの日に、芸者を引き連れて遊んでいると、間の悪いことに主人とばったり顔を会わせてしまいます。今とは違いまして、プライベートな時間なんて言葉のない時代です。あ、しまった。と思ったが、もう遅い。その場は、「どうも、ご無沙汰しております」なんて言葉を濁して、さっと帰って参りましたが、これはもうクビだなとビクビクしながら一晩を過ごしました。
翌日、主人に呼ばれます。いよいよ、これでクビか。明日から、焼き芋でも売って歩こうかなどと身の振り方を考えていると、主人はニコニコして、こんなことを言います。
「いや、お前さんが、あんなに遊び上手だとは思わなかった。あたしゃ嬉しくなりましたよ。大店の番頭たるもの、あんまりしみったれたことでは、お客様もやりにくくなります。パッと使うときは使う。こうじゃなくっちゃいけません。しかも、お前さんは、店の金を使い込むどころか、自分のお金であれだけの遊びをしてしまう。本当にあたしは感心しましたよ。不出来な主人だが、これからもよろしく頼みますよ」
これを聞いて、番頭さんは感動して、一生、この店で働こうと決意を新たにします。
「ところで」
と主人が、言いました。
「お前さんは、あたしの顔を見たときに、『ごぶさたしています』なんて言っていたけど、あれはどういうことだい」
「えぇ、あんな所を見つかって、こりゃもう『ここで会ったが百年目』と思いまして」
落語では、道楽息子の若旦那が多数登場しますが、彼らの多くは、生まれの良さからくる性格の明るさ、世の中や運命に対する楽天的な観測、悲劇性のなさ等々、大変愛すべき性格の持ち主だったりします。
この船徳の徳さんも、そうした一人でして、道楽がすぎて勘当されたにもかかわらず、かつての船遊びの経験を生かして、船頭として再出発しようというわけですが、さてどうなりますことやら。
「船頭さん、大丈夫かい? さっきからあんまり進んでないような気がするけど。それにいつもより川下の方に流されているような……。えっ、大丈夫? 海に出る頃までには向こう岸に着いてる? それじゃ困るんだよ。さっきから見てたら、お前さん、竿ばっかりつきさしてるけど、そうじゃなくって櫓を漕ぐんだよ。え? 今手が離せないから、お前さんが漕いでくれ? えぇえぇ、漕ぎますよ。漕がなきゃ仕方ないんでしょ。船頭さん、こうやって櫓をぐーっと押して、ぐーっと漕ぐだろ、そうすると、船はすーっと進む。ね、こうやって船を動かすもんだよ。おいおい、船頭さん、顔が青いけど、大丈夫かい? 船に酔った? しっかりしとくれよ、本当に。もうすぐ向こう岸に着くから、それまで我慢しとくれ。まったく、なんだって俺が船頭の体調の面倒まで見なくちゃならないんだい。ほら、着いたよ。お代はここに置いとくから。少し休んでから、向こうに戻りな。なに? 帰りの船頭を雇ってくれ?」
廓における男女の関係というのは、実に複雑でございます。
この「文違い」は、新宿のお杉という女性を巡り、角蔵、半七、芳次郎といった人々が織りなすお話しでございます。
角蔵は、新宿近郊の百姓で、まぁ、はっきり言って野暮ったい。ただ、お金はあるものですから、お杉は、なんのかんの言って、彼からお金を搾り取ります。
一方、半七は職人でございまして、なかなかの男前ですから、自分なら女も惚れるだろうと自惚れております。
残る芳次郎は、博打打ちです。お杉は、角蔵と半七から得たお金を、彼に貢いでおります。ところが、芳次郎という男は悪いヤツで、お杉からもらったお金を、別の女につぎ込んでおります。
このことが、お杉にばれ、さらにお杉が芳次郎に貢いでいることが半七にばれたから大変です。お杉は、自分が騙されていたことに腹を立てているものですから、半七に責められて逆切れ。大喧嘩となります。
このケンカをきいて、箸にも棒にもかかっていない角蔵が、
「あ、いかん。オラがやった金のことで、お杉が叱られている。止めないと。それにしても、色男はつらいなぁ」
この噺は間男を逃がしてやるお話です。
「おう、熊さん。よく来たなぁ。まぁ、あがってお茶でも飲んでいきなよ。え、俺? あぁ、俺っちは酔ってるよ。酔って悪いかい? 悪くない? 悪くないけど、押し入れの前で座ってることないだろうだと。てやんでぇ、ここは俺の家だ。どこに座っていようと俺の勝手だい。まぁ、いいや、それで何しに来たの。間男を逃がしてきた帰り? 相変わらず、熊さんはマメだねぇ。で、どうやったの? 酔っぱらって押し入れの前でへたりこんでる亭主の頭から風呂敷をかぶせて、あぁ、なるほど、これは見えない。それで、押し入れをすーっと開けて、押し入れの中にいる男に『早く出ろよ。忘れもんすんじゃないよ』と言ってやった訳か。出て行ったことを確認して、押し入れをサーっと閉めて、風呂敷を取る。なるほどねぇ。うまく逃がしたなぁ。」
世の中には、自分の苦労よりも他人の不幸を見過ごせない人がおられます。
達磨横町の左官長兵衛は、そこそこの腕前の持ち主なのですが、いかんせん、博打が好きです。稼ぎの大半を丁半に使ってしまいます。それでも勝てばいいのですが、こちらの方はからっきしでございまして、だいたいすってんてんで家に帰って、ふて寝することになります。
そんなわけですから、お金がちっとも貯まりません。たまらないぐらいならまだいいのですが、方々で借金をこさえてしまう。これはいけません。
見るに見かねた娘が、借金を返すために女郎屋に身を売ってしまいます。これで目が覚めた長兵衛は、身を粉にして働き、50両の大金を稼ぎます。
娘を身請けしようと、吉原に出かけ、吾妻橋にさしかかったところ、男が身投げしようとしているのに出くわします。あわてて事情を聞くと、男は、店の金を落とし、帰るに帰れず、いっそのこと身投げしてしまおうと思ったと言います。落とした金を聞くと、50両とのこと。長兵衛は、さんざ悩んだあげく、50両を差し出します。
差し出したものの、娘のことを考えると、気分は沈み、トボトボと家に帰ると、家の中がなにやら騒々しい。中にはいると、先ほど身投げしようとしていた男が、かしこまって座っております。その隣には、娘がにこにこして、やはり座っております。
目を白黒させている長兵衛に、男が言うには、落としたと思っていたお金は、店に置き忘れていただけで、とにかく頂いたお金を返そうと思っていたら、長屋の人から、娘さんを身請けするためのお金だったと聞かされ、あわてて吉原に行き、娘さんを身請けしてきたと言います。
後に、この男性と娘が結婚し、麹町貝坂で元結屋を開いたという、文七元結という一席でございます。
古道具屋で、古い瓶を売っておりました。もっとも、古道具屋で新しい瓶を売っていたら、ちょっと考えものですけれど。
この瓶は不思議なことに、売っても売っても翌日、買い主が返しにきます。不審に思った古道具屋の主人が、自分の部屋に瓶を持ち込んで、一晩にらめっこをします。
すると、深夜2時、昔で言うところの丑三つ時に、ぼぉっと青白い火の玉が二つ、三つ浮かんだかと思うと、どろどろと瓶の中から、青白い顔をした男が現れます。
驚きつつも、元々度胸のある主人は、幽霊に一体何の未練があって化けて出てくるのかとたずねます。
幽霊が言うには、自分は賭け事が好きで、ある夜、博打で思わぬ大金を儲け、友人達とどんちゃん騒ぎをして、そのとき食べたフグにあたって死んでしまった。死んだのは仕方ないが、せっかく儲けた10両に未練があるといいます。
古道具屋の主人は、それならと10両を差し出し、これで成仏しろと諭します。
お金をもらった幽霊は、礼を言い、最後にもう一つだけ願いを聞いてほしいと申し出ます。これで成仏するが、できれば最後にもう一勝負したい。
よかろう、と道具屋の主人は、受けて立ちます。幽霊は喜び、もらったお金をすべてかけます。幽霊は丁。古道具屋の主人は半。出た目は五二の半。主人の勝ち。
幽霊は悔しがり、もう一勝負といいます。それは構わないが、もうかける金がないだろうと、主人が聞くと、
「あっしも幽霊だ。決して足は出しません」
吉原のお話でございます。
髪がさびしくなった人物が、吉原に遊びにいったのですが、連れとはケンカしてしまい、目当ての女性には相手にされず、ようやくやってきた花魁も、すっかり酔っ払っていて、ナニをするでもなくイビキをかいて寝てしまいます。腹を立てた男は、持っていた剃刀で女の髪を剃ってしまいます。
落ちは、目が覚めた花魁が、つるつるになった頭を触って、
「あら、お客さんは、まだここにいるじゃない」
世の中には悪いことを考える男がおりまして、年上の妻に飽きたから別れたいと考えます。しかしながら、彼女は、実に貞淑に夫に尽くしております。ただ別れてくれと言っても、通用しません。
一計を案じた男は、弟分の寅次に妻と浮気をしてくれるように持ちかけます。浮気の現場を押さえて、それを理由に別れようというわけです。
持ちかけられた寅次は、しぶしぶ女の家に行きますが、逆に彼女に一目惚れをしてしまいます。そりゃまぁ、そうでしょう。生意気をいうようですが、本当に美人の女性かどうかが決まるのは、30を過ぎてからです。
ともあれ、寅次は女に事情を話します。彼女は、察しもよく、男への仕返しの気持ちもあったのでしょう、逆に寅次に結婚しないかと持ちかけます。寅次としては、断る理由がありません。
そこへ、男が庖丁を持って押し掛けてきます。彼としては、寅次がうまく芝居をしているものと思いこんでいたわけですが、あいにくそうは問屋がおろしません。
寅次からは、「ま、そういうことだから、引き上げておくれ」と言われ、女には塩をかけられ、男はすごすごと引き返してしまいます。
二人になった女と寅次は、めでたく結ばれます。
そこへ、男がまた、家に入ってきました。今さら何しに来たと言われて、男は庖丁を出せと言います。これまでは弟分でしたが、美人の妻を得た寅次は、すっかり気が強くなり、逆に男にすごみます。「なにしにきやがった。やるんなら、俺が相手になってやる」
男は、弱々しく、
「頼むよ、横町の魚屋に庖丁を返さなくちゃいけないんだ」
「ちょっと、寄席に行って来るよ」
なんて昔は、寄席をだしに、男共は女性の家に行っていたのだそうです。ここで、奥様が、
「行ってらっしゃい、噺家がおしろいをつけて待ってるんでしょ」
なんて、嫌みを言うと、男の方はきまりが悪いから、すねて怒ってしまって、けんかになります。これが、やきもちの焼き方が上手だと、
「ちょっと、寄席に行って来るよ」
「あら、あたくしも、この前から参りたいと思っていましたの。よければ、ご一緒させてください」
なんて言うと、男としても断れないわけですから、「はは、いいとも、おいで、おいで」と、本当に寄席に行くことになります。
ともあれ、男が別れ話を切り出しに、50両もの大金を持って女の家に行きます。ところが、話がこじれて、二人は心中することになります。
夜遅く、身投げをしようと吾妻橋に行き、どぶんと男が飛び込みます。しかし、一時の感情の高ぶりで死ぬと切り出したものの、女の方は恐くなって家に帰ってしまいます。
その夜。知人がやってきて、男がやってこなかったかと女に尋ねます。知らん顔を決め込もうとする女に、
「知らないならいいんだよ。ただね、今夜、うとうとしていたら、雨も降っていないのに、あたしの枕元にポタポタと水が滴り落ちる。なんだろうと思って、ふと上を見ると、あいつが恨めしそうな顔で、あたしに言うには、『一緒に死ぬと言うから、吾妻橋から身投げしたのに、あの女は帰ってしまった。あんな不実な女だとは知らなかった。これから、毎晩、あの女のところに化けて出て、取り殺してやる』こういうもんだからね、ちょっと気になって」
これを聞いて、女は恐くなって、髪を切ります。そこへ、死んだはずの男が、がらっと戸を開けて入ってきたから、女はびっくり。勝ち誇る男に、
「そんな髪なら、いくらでもあげるよ。それが本物の髪の毛だと思っているのかい。それは髢だよ。あんたは、50両で、カツラを買ったんだ」
「その金を使ってみろ。お前は、捕まって、磔台に上ることになるぞ。それは偽金だ」
「ちくしょう、どこまで企んでんだ。こんな金返すよ」
「ははは、本当に返しやがった。偽金なんて話は嘘だよ。これは本物だ」
「そうだと思って、3両くすねておいた」