た の段


代脈

 (だいみゃく)
 ぶっつけ落
 出典:古典落語 (講談社)

 銀杏というお医者さんの見習いがおりました。この方、ちょっとぼーっとしたところがございまして、薬を調合しようと縁側ですりこぎを握っていると、うとうとし、体温を測ろうとして寒暖計を取り出す始末。

 そんな銀杏さんが、先生の代わりに、大店のお嬢様の診療に行くことになりました。ご多分に漏れず、はちゃはちゃな状況になります。

「先生、具合はどうなんでしょうか?」
「脈があります」
「脈がなければ死んでると思うんですが……」
「熱もあります」
「えっ、悪いんですか?」
「36度5分」
「……」

 なんてやっている内に、銀杏さんは、お嬢様のおなかに腫れ物があるのを発見します。なんだろう、これ?と興味津々の銀杏さん。よせばいいのに、その腫れ物をぐいっと押してみます。

 その拍子に、お嬢様がぶっと音を出され、お嬢様は真っ赤な顔をしてうつむいてしまいます。

 さすがに、銀杏さんも気まずい。そこでそばにいた女中に

「すいませんが、もうちょっと大きな声で話してくれませんか。最近、耳が遠くなってしまって、聞こえにくくていけない」
「はぁ、そうですか。この間、先生も同じようなことをおっしゃっていましたが……」
「うんうん。うちはみな耳が遠いんだ。そのせいで、さっきのおならも全然聞こえなかった」


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だくだく

 (だくだく) 別名:「書割盗人」
 間抜落
 出典:古典落語 (講談社)

 八五郎さんが引っ越しをしました。

 とは言うものの、引っ越しをしたはいいけれど、家財道具まで手とお金が回りません。とりあえず体一つで新居に越してきたわけです。

 普通なら途方に暮れるこのシチュエーションなのですが、そこは八五郎さん。根っからの楽天家でございます。ま、なんとかなるだろうと暢気なことを言っております。しかし、それでも部屋の中に何もないのは、さすがに寂しい。そこで、八五郎さん、筆と絵の具を借りてきて、壁にタンスやなんやかやを描きまして、とりあえずタンスがあるつもり、鍋があるつもりと、「つもり生活」を始めました。

 言ってみれば、ままごとの延長みたいなものですけれど、これがやってみるとなかなか楽しい。八五郎さん、すっかり気に入ってしまって、金庫があるつもり、置物があるつもりと、欲しいものを描いて、すっかりご満悦でございます。

 そんなある夜、八五郎さんの家に泥棒が忍び込みました。

 しけた長屋。どうせ大したものないだろうと、あまり期待せずに忍び込んだところ、目の前には立派なタンスはあるは、置物はあるは、金庫まである。へへ、案外金持ちというのは、こういう長屋にいるもんだよ、俺もようやくつきが回ってきたと泥棒さん、にやにやしながら室内を物色し、タンスを開けようとするのですが、タンスは押しても引いても開きません。当たり前です。何しろ、絵なのでございますから。

 改めて見回してみると、立派な置物も、金庫もすべて絵です。さすがにこれを盗み出すことは無理です。ちぇっ、なんて日だと泥棒さんが毒づいていると、八五郎さんが目を覚ましました。

「やや、おめぇさん見かけない顔だな。誰だい?」
「誰って、俺っちは泥棒だい」
「なに、泥棒! 不逞野郎だ。叩き切ってやる」

と八五郎さん、刀を構えたつもりで、斬りかかります。

 泥棒さんも洒落っけの分かる人で、つもりの刀をこれまた芝居がかりでよけるものですから、八五郎さんも興に乗って、どたんばたんと二人で大立ち回りを演じます。

「ちょこざいな。これでどうだ! と斬りかかったつもり」
「うわ〜、やられた〜。と斬られたつもり」
「参ったか。と刀の血を拭いたつもり」
「ばたっと倒れて、血がだくだく出てるつもり」

 だくだくというお噺でございました。


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田能久

 (たのきゅう)
 逆さ落
 出典:古典落語 (講談社)

 洋の東西を問わず、昔から蛇は不思議な力を持つ生き物の1つだと考えられてきました。日本でも、長く生きた蛇は、おろちとなり、人間に化けたり、空を飛んだりなどなど、神通力を持つようになると考えられてきました。

 その日、旅の商人の田能久さんは、家路を急いでおりました。里のものからこの辺りには大蛇が出るからと止められたのも聞かず、夜道を歩いていますと、峠の中程で、目の前に巨大な大蛇が。腰を抜かした田能久さん。今まさに田能久さんを一口に飲み込もうとしていた大蛇が、最後にお前の名前を聞いておいてやろうと言います。震える声で田能久さんは、自分は田能久という商人で、年老いた母親と独り暮らし。今自分が死んでしまったら、母親の面倒を見てくれる人がいないと命乞いをします。

 勿論、大蛇としては、田能久さんの事情など知ったことではありません。ところが、「田能久」をタヌキと聞き間違えた大蛇。こう見えても自分は、100年生きたオロチで、人間と間違えて狸を飲み込んだなんてことが知られたら、大変恥だ。危ないところであったと言い出します。

 田能久さんを狸だと勘違いしたオロチは、田能久さんを自分のすみかに案内し、酒を振る舞い、身の上話をはじめます。田能久さんとしては、恐ろしさに気を失いそうになりますが、オロチの機嫌を損ねては大変と適当に相づちを打ちます。すっかり気をよくした大蛇。こうして会ったのも何かの縁。お互いに自分の苦手なものを教えあおうと言います。

 夜が明け、ようやくオロチから解放された田能久さんは一目散に里に下り、ことの次第を村の若い者に告げます。勿論、大蛇が苦手だと言っていた渋柿と、茶殻のことも。それを聞いた村の者達は、大蛇退治に出かけます。

「まったく、あの狸ときたら、恩知らずにもほどがある。俺も長い間、この峠で暮らしてきたが、あんな性悪狸は初めてだ。心許した友だと思ったから、俺の苦手なものを教えてやったのに……。そっちがその気なら、こっちにも考えがある。確か、あいつの苦手なものは小判だと言っていたな。よし、あいつの家に行って小判を降らしてやれ!」


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太兵衛に武兵衛

 (たへいにぶへい) 別名:永代橋

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団子兵衛

 (だんごべえ) 別名:きゃいのう

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ちきり伊勢屋

 (ちきりいせや) 別名:ちぎり伊勢屋

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ちぎり伊勢屋

 (ちぎりいせや) 別名:「白井左近」「ちきり伊勢屋」
 出典:古典落語 (講談社)

 その昔、白井左近という易の名人がおりました。

 ある日、左近がいつものように辻で占いをしていると、質屋の若主人伝次郎が通りかかりました。伝次郎の顔を見るなり、左近はハッとします。

「もし、そこのお若い方。そうそう、お前さんのことだ。こういっては失礼だが、お前さん、よろしくない。いや、お前さん自身に罪はないのだが、お前さんの先祖があこぎなことをしすぎた。お前さんには悪いが、後3日の命」

 こんなことを言われては、たまったものじゃありませんが、驚いた伝次郎は、家に飛んで帰り番頭の藤兵衛に相談した。藤兵衛は、伝次郎の話を聞き、深い嘆息をつきながら、

「若主人は、本当に立派な方でございます。しかしながら、言いたくはございませんが、若主人のお父様、おじいさまは、確かに少々人に恨まれすぎておられました。ましてや、占いの名人と評判の左近がそういったのですから、残念ながら……」
「それでは、私はどうすればよいのだね」
「若主人は、これまで道楽もせずに一生懸命働いてこられました。どうでしょう。地獄の沙汰も金次第とは申しますが、あの世までお金を持っていけるものではございません。ここは一つ、ぱーっと使われては」

 藤兵衛の提案をもっともだと考えた伝次郎は、それは3日3晩、大盤振る舞いをします。生まれて初めて吉原にも行き、近所に困っている人がいれば、ぱーっとお金を渡し、もちろん、今まで食べたことのないようなもの、飲んだことがないようなもの、どんどん注文して、近所の人々に振る舞います。

 そしていよいよ3日目の夜。覚悟を決めた伝次郎は棺桶の中に横たわり、最後の時を待ちます。

 ところが。

 まだか、まだか、いつくるかと待つのですが、いっこうに死ぬ気配がありません。一番鶏が鳴き、二番鳥が鳴き、とうとうお天道様がのぼっても、まだ死にません。いやいや、油断させておいて、あっという間に死に神が来るのではと、棺桶の中で伝次郎は待ちますが、やはり死にません。

 4日目。さすがに空腹に耐えかねた伝次郎は、棺桶から出ます。もしかして助かったのか? いや、もしかしなくても助かったんだと、伝次郎は喜びますが、ここで困ったことが起こります。てっきり死ぬものだと思って全財産を使い果たしたものですから、明日からどう生活したらいいものか、途方に暮れてしまいます。

 当座のしのぎと幼なじみの伊之助と駕籠かきを始めたものの、苦しい生活が続きます。

 そんなある日、幇間の一八とばったり出会います。

 かつての面影は今はなく、すっかり変わり果てた伝次郎を見て、一八は驚き、以前のご恩返しと着ていた羽織と着物を伝次郎に渡します。伝次郎は心からお礼を言い、必ずこの着物を帰すと約束して、質屋に着物を預けます。

 一月後、とにもかくにもお金を作った伝次郎は、質屋に行き、預けた着物を質から出します。そんな伝次郎に感心した質屋の主人は、事情を聞き、それなら娘と結婚して、この店の跡を継いでくれないかと伝次郎に頼みます。

 その後、話を聞いた左近が、伝次郎にお詫びを言いに行き、何故占いが外れたか、もう一度、占わせて欲しいと申し出ます。

 伝次郎が快く左近の占いを受けたところ、

「分かりました。お前さんが全財産を使って施したので、これまでの因果が全て解消されたのです。ご安心なさい、お前さんは天寿をまっとうされますよ」

 その左近の言葉通り、伝次郎は質屋の娘と仲むつまじく、80まで生きられた。


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茶漬幽霊

 (ちゃずけゆうれい) 別名:三年目

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茶瓶ねずり

 (ちゃびんねずり) 別名:やかんなめ

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帳場無筆

 (ちょうばむひつ) 別名:三人無筆

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長名の伜

 (ちょうめいのせがれ) 別名:寿限無

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鶴屋善兵衛

 (つるやぜんべえ) 別名:三人旅

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転失気

 (てんしき)
 間抜落
 出典:古典落語 (講談社)

 和尚様が、お腹が張って苦しいので、お医者さんに相談します。様態を診た医者は、和尚に転失気はあるかと尋ねます。和尚様は、医者の言う転失気の意味が分からない。ところが、この和尚さん、いたって負け惜しみ強い方でございまして、「わからない」と言うことができません。その場はなんとか取り繕ったものの、さて、「転失気」とはなんぞや。

「珍念、珍念はおらんか」
「へぇ、和尚様、呼ばれましたか?」
「お前は、てんしきというものを知っているか」
「いえ知りません」
「そんなことでどうする。もう14、5にもなれば一人前になりかかっているのじゃ」
「はぁ、和尚さん、てんしきというのはなんです?」
「わしが教えてもいいが、それでは修行にならん。前の花屋に行って、てんしきをちょっとお借り申したいとかなんとかいって聞いてきてみなさい」

 小僧さんが、花屋で転失気を貸してくれとというと、花屋の主人は先日ネズミが棚から落として壊してしまったと言います。その旨を和尚さんに報告すると、今度はお医者さんに聞いてこいと言います。

 減るものでもなし、教えてくれればいいのにと小僧さんはブツブツ思いつつ、お医者さんに所に行き、てんしきとは何かとたずねると、医者は笑いながら、「転失気」というのは漢方の世界で「気を転(まろ)め失う」というところから転失気と書いて、おならのことを言うのだと教えてくれます。

 はは〜ん、どうも和尚さんは転失気を知らないなと察した小僧さんは、素知らぬ顔をして、てんしきは盃のことだったと答えます。

 翌日、再びお医者さんが来て、具合はどうかと和尚さんに尋ねます。随分よくなった、そうそう昨日聞かれた呑酒器(てんしき)ですが、うちにも三つ組みのものがありました。よければ見てくださいと和尚さんが自慢げに言います。医者の方は、この和尚さんは何を言い出すのかときょとんとした顔をしています。小僧さんはニヤニヤしながら、言われたとおり、奥の部屋から盃を持ってきます。

 盃を前にして、お医者さんは、漢方では放屁のことを転失気と言うのですが、どういうわけでお寺では盃のことを「てんしき」と言うのかと不思議そうな顔をして尋ねます。  しまったと思った和尚さん。しかし、そこは生来の負けん気の強さ。

「えぇ、たくさん過ぎるとブーブーが出ます」


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転宅

 (てんたく) 別名:「義太夫語り」
 地口落
 出典:古典落語 (講談社)

 今では自動洗濯機がありますから、普通の家庭では毎日洗濯をされています。ちなみに31歳、独り暮らしな僕は1週間に2回程度です。

 それはともかく。

 今でこそ自動洗濯機がありますが、昔は当然の事ながらそんなものはないわけでして、洗濯が家事の中で大きな割合を占めるものだったことは、洋の東西を問わないようです。チャペックが言うには、洗濯をするとなると奥さん方は、役立たずの夫連中をしり目にワイワイと実に楽しそうにされるのだそうです。

 さて、お梅さんのところに泥棒が入りました。しかし、そこはしっかり者のお梅さんのことです。ただ震え上がってガタガタしてるなんてことはありません。泥棒をおだて上げ、夫への愚痴に付き合わせ、「今の夫には、ほとほと愛想がつきた。あんたと一緒に逃げよう」と言います。泥棒はすっかりその気になって、夜逃げのための準備にと懐から紙入れをお梅さんに渡します。お梅さんは、「夫のいるときには、タライを出しておくから、タライが出てないときに来ておくれ」と泥棒をひとまず帰します。

 翌朝、泥棒がお梅さんの家にやってくると、タライが出ている。翌日も出ている。その翌日も。不思議に思った泥棒が近所の人に聞くと、

「なんでも、お梅さんのところに泥棒が入ったそうで、うまいこといって泥棒の金まで取り上げて帰したけど、仕返しが恐いから、昨日暗いうちに転宅しました」

とのこと。

 それを聞いて泥棒は、

「えっ、洗濯? どうりでタライが出ていた」


【注】
 「義太夫語り」の題で演じられるときは、サゲを「さすが義太夫、うまくかたられた」と落とします。

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道中の馬子

 (どうちゅうのまご) 別名:猿丸

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年ほめ

 (としほめ) 別名:子ぼめ

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頓知の医者

 (とんちのいしゃ) 別名:顔の医者

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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 2000/10/21 $